去る9日、芸能人の乳がんに関する記者会見をご覧になって、多くの方々が乳がんに関する不安、恐怖を抱いたことかと思う。「進行乳がん」というのは、一体どういうものなのか。また「進行乳がん」ではどういうことが重要なのか。この場を借りて概説したい。

　まず乳がんでは、がんの進行度によってステージ分類が行われる。これは他のがん種も同様である。乳がんの腫瘍の大きさが2センチを超えず腋窩（えきか）リンパ節転移のない状況が、いわゆる早期乳がんの「ステージ1」ということになる。

　先の記者会見では、ステージに関して明言されなかったが、腫瘍径が大きくなるに従って、あるいはリンパ節転移の進展に従ってステージは上がっていく。遠隔転移（肺や肝臓、骨などへの転移）を診断時から認める状態が、いわゆる進行がんの「ステージ4」ということになる。

　さて、「進行乳がん」あるいは「転移再発乳がん」では、特に治療法に関して気を付けないといけない。つまり、いい加減な治療や誤った治療方針の提示、例えば、「抗がん剤は効かない」などの判断は、患者へダイレクトに不利益を与えてしまうことになる。

　治療に際して重要なことは、腫瘍の生物学的特性を認識することである。乳がんという病名は１つであるが、その病態は極めて多彩で、加えて治療を行っていく段階で、がん細胞の顔つきは刻一刻と変化していく。この病態をしっかりと見極め、そして過去の膨大なデータ、大規模臨床試験のデータに基づいたエビデンス（医学的根拠）ベースの治療を行っていくことが大変重要になる。

　米国テキサスのＭＤアンダーソンがんセンターのデータ、あるいはわれわれ那覇西クリニックデータベースの結果では、転移再発乳がんの治療成績は近年明らかに改善してきており、しっかりと治療を行うことが大切であることが、これらのデータからも分かってきている。

　さらに米国のガイドラインに「全てのがん患者にとって、最良の管理法は臨床試験にあり、臨床試験への参加が特に推奨される」と記載されている通り、治験や臨床試験をベースとした治療を行っていくことも、また重要であると考えられる。

　沖縄県では、残念ながら乳がんで亡くなられる方がいまだに多い状況にあるが、患者の気持ちを大切に、生活の質の向上や家族背景、社会的背景も十分考慮して、患者に寄り添った治療をしっかりと行うことが非常に重要なことだと思う

（琉球新報論壇　2016年6月14日掲載）

那覇西クリニック乳腺外科
玉城　研太朗