エッセイ
Vol.36 「進行乳がん、転移再発乳がんは治療戦略が大変重要」
先日の芸能人の乳がんに関する記者会見を見て、おそらく多くの県民の皆様が乳がんに対する不安、恐怖を抱いたことであろう。進行乳がんとはいったいどういうものなのかここで少しお話をしてみたいと思う。
進行乳がんとは腫瘍径が大きく腋窩リンパ節転移のある状況、あるいは肝臓や肺、骨といったような遠隔転移を有する病態の乳がんである。記者会見であったように治療が長期にわたるのは確かである。さてこのような進行乳がんで重要なことは正確な病状把握と正しい情報に基づいた治療方針の確立そして生活の質を悪化させない、患者さんに寄り添った治療を行っていくことが大変重要である。
まず正しい病状把握というとこだが、乳がんは生物学的特性が大変多彩で、それぞれのタイプによって治療方針が大きく異なってくる。例えば女性ホルモンによって増殖するタイプなのか、ある種の受容体のシグナルが影響を及ぼしているのか、乳がんに特異的な遺伝子の関連はどうかなど、病態が千差万別でそれぞれの病態に対応した治療が重要である。さらには転移臓器の特性も考慮して治療を決定することも大切で、骨に特別な治療や脳へのアプローチなどもまた特別な治療となってくる。正しい情報に基づいた治療は、過去の膨大な研究に基づいた治療を遵守すること、さらには治験や臨床試験を積極的に取り入れて治療を行っていくことも大変重要なことである。
乳がんの治療はここ数十年で劇的に変化をしてきた。さらにここ10年では治療戦略が飛躍的な発展を遂げており、那覇西クリニックのデータの解析でも進行乳がん、転移再発乳がんの治療成績が向上していることがわかる。とにもかくにもしっかりとした治療を行うこと、これが命にかかわる部分として大変重要である。
今回の記者会見を受け、我々専門家は病気だけではなく、家族背景、社会的背景や患者さんの心の部分にも向き合っていき、患者さんに寄り添った質の高い医療を心がけていきたいと心より思った次第である。記者会見では前向きに治療に向き合っているとのお話があった。治療が長期になってきており、心身ともに大変つらいかと思いますが、一日も早く回復されることを心よりお祈り申し上げております。
(沖縄タイムス寄稿 2016年6月12日掲載)
那覇西クリニック乳腺外科
玉城 研太朗
最終更新日:2016.06.12