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Vol.34 遺伝性乳がん卵巣がん症候群:アンジェリーナジョリー問題を考える

 米国のハリウッド女優、アンジェリーナジョリーさんが両側卵巣卵管摘出術を施行したというニュースが世界中を駆け巡った。アンジェリーナジョリーさんは乳がん及び卵巣がんに罹患しやすいBRCA1遺伝子変異を有しており、2013年にリスク低減両側乳房切除術を、そして今回リスク低減両側卵巣卵管摘出術を施行した次第である。乳がん治療及び卵巣がん治療あるいは予防を行う上で、この遺伝性乳がん卵巣がん症候群の問題は非常に重要なので、今一度考えてみたいと思う。

 遺伝性乳がん卵巣がん症候群はBRCA1またはBRCA2遺伝子の病的変異が原因で乳がんや卵巣がんを高いリスクで発症する遺伝性腫瘍の一つである。本疾患の特徴としては乳がんの若年発症、濃厚な家族歴、両側発症、またホルモン剤や分子標的治療薬が効きにくいタイプ(トリプルネガティブ乳がん)が多いこと、また卵巣がんにおいても濃厚な家族歴を有することが多いといった特徴が挙げられる。

 さて遺伝性乳がん卵巣がんと診断された場合の検診や予防方法としてどのようなものがあるだろうか。まず乳房に関しては25歳から、あるいは家族で乳がんを発症したもっとも早い年齢から乳がん専門施設での検査が推奨される。卵巣がんにおいても半年に一度の経膣超音波検査や腫瘍マーカーの検査が推奨される。そして今回話題のリスク低減手術である。BRCA1/2遺伝子変異保有者のリスク低減両側乳房切除術で乳がん発症リスクが90%以上減少する。また卵巣がんの場合は、リスク低減卵巣卵管摘出術により、卵巣がんの発症のみならず死亡率も減少することが報告されている。このデータを基にアンジェリーナジョリーさんはリスク低減両側乳房切除、両側卵巣卵管切除術を施行したということになる。

 今回のアンジェリーナジョリーさんの選択が正しいかどうかは、倫理的側面も踏まえて考えなければならないことが多々あるが、ただ少なくとも遺伝性乳がん卵巣がん症候群という疾患を認識していただき、濃厚な家族歴を有する際は遺伝外来を受診していただくことをお勧めしたい。また必要時には遺伝子検査を受けることが、人生設計を考えるうえで非常に重要ではないかと考えられる。県内で遺伝カウンセリング及び遺伝子検査の実施施設は、「日本HBOCコンソーシアム」のホームページをご参照頂きたい。

(琉球新報論壇 2015年4月掲載)

那覇西クリニック乳腺外科
玉城 研太朗

最終更新日:2015.04.25