エッセイ
Vol.29 「乳癌適正治療の重要性」
近年、食の欧米化、少子化などの影響もあり乳癌の罹患率は上昇傾向で、現在16人に1人が乳癌に罹患する時代なってきた。加えて乳癌死亡に関しては、日本全国で年間1万人の乳癌患者さんがお亡くなりになっている。
沖縄県の現状はどうであろうか。沖縄県はかつて乳癌死亡率で全国水準と比較し、かなり良好な成績、つまり乳癌で亡くなるリスクが他県と比較して低いという時代が長く続いた。しかしながらここ数年の乳癌死亡の動向を解析すると乳癌死亡率の上昇は顕著で、現在沖縄県は乳癌死亡率の上位、つまり乳癌死亡リスクが高い県のひとつとなってしまった。これは我々治療医のみならず、沖縄県の皆さまにとっても由々しき事態だと考えている。
乳癌の死亡率を減少するためには、検診システムや治療方針、啓発など様々な角度から対策を練る必要があるが、ここでは乳癌の適正治療の重要性について論じたいと思う。乳癌のみならず様々な疾患において治療法は、治験や臨床試験といった数多くの研究により決定されている。乳癌に特化して考えてみると、乳癌は癌細胞のバイオロジー(特性)あるいは癌の進行度によって治療方針が決定されるが、その際の治療方針は過去の治験・臨床試験の結果を踏まえた、エビデンスに基づいた治療を行っていくことになる。
沖縄県の乳癌死亡を解析してみると、適正治療ではない、エビデンスのない治療により乳癌死に至ったケースが少なからず認められた。例えば科学的根拠に基づいた化学療法や内分泌療法、手術や放射線療法を受けず、ビタミン大量療法やサプリメントの服用、あるいは温熱療法といった科学的根拠のない治療法で命を落とされている方がいるということが分かってきた。フコイダンやアガリクス、サプリメントを飲んでも、また癌細胞を温めても冷やしても乳癌は治らない。乳癌死亡率減少の為に科学的根拠に基づいた乳癌適正治療は極めて重要である。
(2013年4月16日 沖縄琉球新報「ゆんたくひんたく」掲載)
那覇西クリニック乳腺外科
玉城 研太朗
最終更新日:2013.04.16