エッセイ
Vol.25 乳癌のお話(乳癌の性質の見極めが重要)
みなさんは乳癌に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか?「胸にしこりをころころ触れる」「痛そう」「癌なのでとても怖い病気」といった声を多く聞きます。私の乳癌に対するイメージは、「乳癌は多彩な病気である」です。
“乳癌”とひとことで言いますが、時代が経つにつれ、研究が進むにつれ、乳癌が多彩な病気であることが次第に分かってきました。ギザギザの形をした腫瘍、まるっこい腫瘍、石灰化として見えてくる乳癌もあります。顕微鏡レベルで見てみますと、砂をばらまいたように、癌細胞がぱらぱらと散在しているような乳癌や、小さくても癌細胞が緊満しているような乳癌などがあります。さらに個々の癌細胞を見てみますと、形状不整で核分裂を認めるような細胞(我々の世界では顔つきが悪いと表現したりもします)や、均質で悪性度の低い癌細胞(おとなしい癌と表現することもあります)など様々です。これらの検査を踏まえて、手術、化学療法、内分泌療法、放射線療法などの治療法を決定するのです。
乳癌は腫瘍の大きさやリンパ節への転移、遠隔転移などの程度によってステージ0からステージ4まで分類されます。ステージ0は非浸潤癌、ステージ1は小さい腫瘍でわきの下のリンパ節に転移がない乳癌でここまでは早期の癌に分類され、予後(命のリスク)も比較的良好です。ステージが進むにつれ予後不良になります。とは言いましても、乳癌の場合はステージが高くても薬物療法が非常によく効く乳癌も数多く存在し、決して悲観的になる必要はありません。乳癌薬物療法の進歩は目覚ましいものがあり、特に今世紀に入ってからは新規抗がん剤、ホルモン剤に加え、分子標的治療薬などの新しいお薬がどんどん開発され使えるようになってきました。その効果に関しても米国で発表された論文、あるいは我々の研究グループの結果でも、時代の変遷とともに予後の著しい改善が認められ、今後の新規抗腫瘍薬の開発と更なる予後改善効果を期待したいところであります。
乳癌と一言では言いますが、非常に多彩な疾患です。腫瘍特性をとらえ、個人個人に適した治療法(テーラーメイド医療)がますます重要になってきます。しかしながら早期発見、早期治療が、乳癌予後改善のもっとも基本となる部分です。“みなさん是非、乳癌検診を受診しましょう”
玉城 研太朗
最終更新日:2012.02.14