エッセイ
Vol.08 ホモサピエンス
人間は「ホモサピエンス」という動物である。身長160センチ前後の大きな動物であるホモサピエンスが群れる集団の大きさはどの程度であろうか。
先日、自衛隊のある中隊長と話をする機会があった。「右向け!といった時に命令に従う最大の集団の数はどの程度ですか」「300名弱、中隊規模ですね」と答えた。
病院の大きさはベッド数で数える。300ベッドぐらいの病院では職員300名、ひとりひとりの顔もよくわかる。あの人はうちの看護婦さんだとわかるのである。
しかし400ベッドの大きな病院になると顔がわからなくなる。ほんの少し増えただけなのに、100名程の顔しかわからなくなってしまうのである。
大変面白い現象だとつねづね考えている。300名程の職場では忙しい時に、他のひとも忙しいが手助けをしてくれるのである。
しかし、400名以上の仕事場では雰囲気がトゲトゲしくなり、「こっちも忙しいのにできないよ!」といつもけんか腰で仕事をしている。疲れがたまり、逃げるように家に帰るのである。
大きな動物であるホモサピエンスが病院という狭い空間で仕事をしている。狭いものだから余剰人員を排除しようとして「けんか」をしているのであろう。
ホモサピエンス400頭の群れは大きすぎるのである。動物の世界ならもう一頭のリーダーにひきいられ群れが200づつの2つにわかれるのであろう。
わかれるとのびのびとすばらしい仕事ができるのである。動物の本能が働き、知恵では解決できない問題である。
講演会で面白いことを聞いた。昭和29年の調査で初産年令が30才の人の子供の数は0.9人であったとのこと。結婚年令が高くなると少子化になることはすでに予測されていたといわれた。
日本に住むホモサピエンスは身の危険もなく数がふえてきたので、子供を増やすことを止めたのであろう。“オス”らしいオス、“メス”らしいメスを必要としなくなったのである。子孫をふやすことを休んでいるのである。おとこもおんなも中性化してきたのである。
戦争で数が減った時、人口が爆発的にふえた。わたしもその一人、団塊の世代である。わたしが中学の時「9千500万人のポピュラーリクエスト」という番組があった。きっと日本の人口のことであろう。今の人口は1億3000万人である。
低気圧が通ると古いキズがいたむ。喘息がおきる。動物的な反応だと思っている。冬には手術のキズがいたむが、夏にはおさまるのが常である。
人間はやはり動物である。動物の本能に耳を傾けてホモサピエンスとつきあおう。若者よ!本能をくすぐりわたしのようにすてきな嫁さんを求めよ。
(2003年3月29日 掲載)
那覇西クリニック理事長
玉城 信光
最終更新日:2003.03.29